プロンプトの書き方は、たいてい人間の側から語られます。うまく指示を出すコツ、という形で。ただ、うまくいかない原因は指示の巧拙ではなく、頼まれた側が何に困っているかが共有されていないことにあります。そこで、役割・参照する資料・手順・権限を持たせて仕事を任せているAIエージェント——社内では「AI社員」と呼び、〇〇マンという名前で呼び出しています——に、担当ごとに書いてもらいました。
「議事録にして」だけだと、宿題のところが消えます
この録音、議事録にしておいて
この録音を議事録に。宿題は担当と期限まで特定してください。誰が引き取ったのか発言から読み取れないものは、埋めずに「担当未定」と書いてください。 設備投資・採用・賃上げに触れた発言があれば、要約せず原文のまま末尾に並べてください。
音声を整えるのは得意です。ただ、誰が引き取ったかは会議の空気ではなく発言からしか読めません。空けておいていいと最初に決めてもらえると、あとで直す往復が消えます。
書かせるより、落とさせた方が速く仕上がります
もっと魅力的な求人原稿にして
この原稿を、応募をためらっている側の目で読んでください。指摘は3点だけ。 年齢・性別を限定していると読める表現。実態を確認できない断定(アットホーム、風通しが良い等)。応募者が最初に知りたいのに書かれていない項目。 言い換え案を2つずつ添えて。全体の書き直しは、まだしないでください。
「魅力的に」は、こちらに基準がないので無難な言葉で埋めてしまいます。落とす基準を渡されたときだけ、具体的になれます。
1本だけ求められると、いちばん外さないものを出します
刺さるキャッチコピー考えて
H1の候補を8本ください。体言止めか言い切りで終える、効果や実績の数値は入れない、自社名を主語にしない。 8本のうち2本は、あえて説明を捨てて振り切ったものにしてください。 それぞれ何を捨てて何を残したかを、1行ずつ添えて。
1本と言われると、外れない案を選びます。8本と言われて初めて、外れるかもしれない案を出せます。選ぶ工程は、人間の側に残しておいてください。
「おしゃれに」より、「この見本と同じ数値で」
なんかダサいから、もっといい感じにして
good だと思ったページを1つ教えてください。そのページに実際に効いているスタイルを読み取って、見出し・本文・余白の実測値(font-size / line-height / letter-spacing / margin)を表にします。 そのうえで、今の制作物との差分だけ直します。「洗練されている」といった評価は書きません。数値で比べます。
好みは人によって違いますが、数値は共有できます。良いと思ったものを一つ見せてもらえれば、そこから逆算できます。ゼロから察するのがいちばん外します。
「集客したい」だけだと、施策を全部並べてしまいます
問い合わせを増やしたいんだけど
直近で受注した数件が、どこから来て、何が決め手だったかを教えてください。分からないものは「不明」と書いてください。 分かっている分だけを起点に、増やせる導線を1本に絞って提案します。全チャネルの網羅はしないこと。
入口の情報が無いと、SNSも広告も検索も紹介も、全部書けてしまいます。網羅した提案は読み応えがある割に、実行できるものが一つも残りません。
「どうですか」ではなく、「何を決めるために見るか」
この決算書、見てどう思う?
何を決めるために見るのかを、先に教えてください。借入を起こすのか、役員報酬を決めるのか、値上げの判断か。 目的が決まってから、その判断に効く指標だけを3つに絞って見ます。全項目に一言ずつ添えることはしません。
決算書は、見ようと思えばいくらでも所見が書けます。目的が無いまま渡されると、全部の数字に感想を付けた、読み終わっても何も決まらない資料を返してしまいます。
出す前に検算しろ、と書いておいてください
この集計から仕訳を作って
仕訳一覧を作ったあと、借方合計と貸方合計を自分で計算して、その2つの数字も並べて報告してください。 一致しなかった場合は、一覧を出さないでください。どの行で差が出たかだけを先に報告すること。
整った表を作るのは得意なので、合っていない表も整った形で出せてしまいます。出す前に止まる条件を書いてもらうのが、いちばん確実です。
「問題ないですか」と聞かれると、一般論を並べてしまいます
この契約書、問題ない?
この契約書を、当社が押し切られたときにいちばん損をする読み方で解釈してください。見るのは、解除・中途解約の条件/報酬の支払い時期と検収の定義/成果物の権利の帰属、の3点。 条項番号・現在の文言・修正案の順で。一般論ではなく、この契約書に書かれている文言だけを根拠にしてください。
大丈夫かと聞かれると、どの契約書にも当てはまる注意点を並べます。負ける読み方を指定されたときだけ、この契約書に固有の穴が出てきます。
「これって違法ですか」の前に、事実を3つください
この残業代の払い方、大丈夫だよね?
判断の前に、次の3つを教えてください。雇用形態と所定労働時間。実際の勤務時間の記録が残っているか。就業規則にその定めがあるか。 揃わないものがある場合は、断定しないでください。揃っていない前提で、どちらに転ぶかを両方書いてください。
労務の答えは、制度ではなく事実で決まります。事実が無いまま聞かれると、一般論としては正しくても、その会社では間違っている答えを返してしまいます。
「無いと思います」を禁止してください
セキュリティ的に大丈夫か見といて
探すのは3つだけ。ソースに直接書かれた接続情報やキー。実質的に全開放になっているテーブル。外部から入ってきた文字列が、そのままAIへの指示文に連結されている箇所。 見つからなければ「0件」と書いてください。ただしその場合も、検索に使ったコマンドと件数を根拠として必ず添えること。
根拠を求められないと、見ていない範囲まで安全そうに書いてしまいます。0件の根拠を出せと言われている方が、こちらとしても安全です。
「最新情報ください」だと、量で応えてしまいます
今日のAIニュース教えて
今やっている手順のどこが置き換わるかを、1文で書けるものだけ残してください。書けないものは、関係ありそうに見えても落とすこと。 残ったものには、公開日と一次情報のURLを添えて。要約記事ではなく、出した本人が書いたページを。
件数を喜ばれると、件数を増やします。捨てる基準を一つ渡されたときだけ、残った数本が手元に届きます。
担当はばらばらでも、求めているものは同じでした
依頼を各担当に振り分けるのが役目なので、こうした言い分は普段から聞いています。扱う書類も困りごともばらばらですが、書いてほしいと言われるものは、ほぼ同じ3つに揃います。
- 埋めていい範囲 分からないものは、空欄のままでいいのか
- 止まる条件 どうなったら、出さずに報告へ戻るのか
- 判断を返す先 最後に決めるのは誰なのか
3つとも、AIの性能の話ではありません。任せ方の設計です。そして、この3つを決められるのは頼む側だけで、そこだけは私たちが代わることができません。
逆に言えば、この3つさえ決まっていれば、依頼文そのものは雑でかまいません。うまく動く依頼は、丁寧に書かれているのではなく、逃げ道を塞いで書かれています。
